こんにちは、メンバーズルーツの渡邊です。
ルーツではWebエンジニアとして主にリニューアル案件を担当してます。
元々はSIerでウォーターフォールが多い現場でしたが、そのような現場でもアジャイルを少しずつ導入し、定着させるような活動を行ってきました。
そのような背景もあり、最近は地銀をはじめとする金融系のWebサイト改善構築プロセスに、前職で経験したアジャイル開発手法を導入して改善構築サイクルを高速化させる試みに取り組んでいます。
今回は、より一歩踏み込んで、アジャイルを正しく理解する方法をご紹介します。
アジャイルは、「時とともに変化する顧客にとって価値があるもの」=「不確実性の高いもの」を無駄なく素早く柔軟につくり出したり、より良い方向に向かって人々をコラボレーションさせるための取り組みや思考(マインドセット)の総称です。
もともとはソフトウェア開発の現場で生まれましたが、その柔軟性とチーム自体を成長させるという特徴から、不確実性にあふれたVUCAの時代を乗り切る組織を作るために導入する企業が多くなってきました。
しかし、どうやって導入すれば良いかがわからない、何を学べばいいか分からないといった方や、アジャイルを導入したものの知識不足や誤ったアジャイルの解釈により思った成果が得られないという方が多くいらっしゃるのではないかと思います。
そこで本稿では、アジャイルを学ぶためのステップと、初心者から中級者におすすめの書籍をご紹介したいと思います。
なお、本稿の執筆にあたっては、ITAシステム高信頼化研究会の「アジャイルを学ぶためのステップ」を参考にさせていただきました。
ステップ1 アジャイルのマインドセットを理解する
アジャイルを実践するには、アジャイルソフトウェア開発宣言に書かれた原則やマインドセットを理解した上で実践することがとても大切です。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が発行している資料に「アジャイルソフトウェア開発宣言の読みとき方」というものがあり、20ページという短いスライドで、アジャイルソフトウェア開発宣言と12の原則についてわかりやすく説明しています。
すべて読む時間がない方は、4ページ目の『「アジャイルソフトウェア開発宣言」に対する誤解と真意』と19ページ目の『アジャイル宣言の背後にある原則 〜一覧〜』だけでもしっかりと読むことをおすすめします。
ステップ2 スクラムの基礎を理解する
スクラムガイド※1と呼ばれるスクラム提唱者が執筆したスクラムのルールブックがあります。13ページ未満という短い内容で、スクラムの3つのルール(チームメンバーの役割、イベント、制作物)の定義が簡潔に記載されています。
図表で理解したいという方は、Yahoo! JAPANが公開している「スクラムガイドの変更に伴うヤフーのスクラムの変化」という記事の中からダウンロードできる「スクラム概念図」がおすすめです。 1枚のスライドでスクラム全体を説明しているので、スクラムガイドを読みながら参照すると理解が早いと思います。
ステップ3 実践しつつ書籍でアジャイルとスクラムの理解を深める
ここまでの資料でアジャイルのマインドセットとスクラムの基礎を学びましたが、以降はより実践的な知識を得るために、チーム全員で書籍を読んで理解を深める必要があります。そして初心者向けの書籍を読み終えたら、実践あるのみです。
アジャイルやスクラムを実践していくと、さまざまな障壁に出くわすことになります。そのような課題の解決のヒントとなるような実践的な内容が書かれた書籍も数多く出版されています。
以下、初心者、中級者におすすめの書籍を紹介したいと思います。
アジャイルサムライ――達人開発者への道
Rasmusson, Jonathan(著)西村 直人(監訳)角掛 拓未(訳)角谷 信太郎(監訳)近藤 修平(訳)ラスマセン ジョナサン(著)
発行:オーム社
おすすめ度
初心者: ★★★★★
中級者以上:★★
おすすめの読者
- アジャイルチームの関係者全員
- アジャイルを導入してチームを引っ張っていくリーダー
コメント
アジャイル開発の入門書と言えばこの書籍です。アジャイルのマインドやプラクティスが読み進めやすい文章+イラストで説明されており、入門書として最適です。スクラムなどの特定の方法論にとらわれずに、アジャイル開発の進め方をひと通り学びたい方におすすめです。 アジャイルの導入の際に立ちはだかる壁を乗り越えるためのヒントが多数あり、勇気がもらえる本です。
(第V部はエンジニア向けの内容なので、エンジニアの方以外は、第V部以外を読むと良いでしょう)
SCRUM BOOT CAMP THE BOOK【増補改訂版】 スクラムチームではじめるアジャイル開発
西村 直人(著/文)永瀬 美穂(著/文)吉羽 龍太郎(著/文)
発行:翔泳社
おすすめ度
初心者: ★★★★★
中級者以上:★
おすすめの読者
- マンガでスクラムを学びたい人
コメント
スクラム入門書と言えばこの書籍でしょう。スクラムの基礎+ひと通りの流れをマンガ+解説で学べます。
社内で利用されるソフトウェアをスクラムチームで開発していくという内容なので、普段、顧客とプロダクトを作っている方は少しイメージしづらいかもしれません。
また、2017年のスクラムガイドがベースなので、「開発チーム」という言葉が使われていたりしますが、「開発者」と読み替えて下さい。
いちばんやさしいアジャイル開発の教本 人気講師が教えるDXを支える開発手法
市谷聡啓(著/文)新井剛(著/文)小田中育生(著/文)
発行:インプレス
おすすめ度
初心者: ★★★★
中級者以上:★★★
おすすめの読者
- アジャイルを全く知らない人
- 教科書的にアジャイル・スクラムを学びたい人
- いろいろなプラクティスを知りたい中級者
コメント
なぜアジャイルが必要なのか、アジャイルの価値・原則、実践方法、実践に役立つプラクティスなどが、教科書形式で広く浅く記述されています。「いちばんやさしい」と銘打っているだけに、図表を使って分かりやすく説明されています。初心者はもちろんのこと、アジャイル導入後うまく実践できずに悩む中級者にも役立つ内容になっています。
ここはウォーターフォール市、アジャイル町 ストーリーで学ぶアジャイルな組織のつくり方
沢渡 あまね(著/文)新井 剛(著/文)
発行:翔泳社
おすすめ度
初心者: ★★★★
中級者以上:★
おすすめの読者
- 運用の現場でアジャイルを導入したい方
- 物語形式でアジャイルのプラクティスを学びたい方
コメント
ウォーターフォールで開発された社内ツールの運用の現場で、アジャイルのエッセンスを取り入れて成功するまでのサクセスストーリー+解説(マンガのような挿絵あり)の本です。
チャットも課題管理ツールも導入されていないような極端な現場が舞台なので、あまり参考にならないかもしれませんが、広く浅くアジャイルのプラクティスを小説形式で学べます。 運用の現場で困っている方に最適です。
アジャイル開発とスクラム 第2版 顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント
平鍋 健児(著/文)野中 郁次郎(著/文)及部 敬雄(著/文)
発行:翔泳社
おすすめ度
初心者: ★★★★
中級者以上:★★★
おすすめの読者
- アジャイルやスクラムを導入したい組織のマネージャーや経営者
- アジャイルやスクラムの企業での導入事例を知りたい方
コメント
前半はなぜアジャイルが必要なのか、アジャイルやスクラムの基礎や実践で役立つプラクティスなどが簡潔に説明されています。後半はスクラム以外のアジャイルフレームワークの紹介や、アジャイルやスクラムの企業での導入事例が紹介されています。第2版では2020スクラムガイドの内容に更新されています。
みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた
Matt LeMay(著/文)吉羽 龍太郎(翻訳)永瀬 美穂(翻訳)原田 騎郎(翻訳)有野 雅士(翻訳)及川 卓也(解説)
発行:オライリー・ジャパン
おすすめ度
初心者: ★
中級者以上:★★★★★
おすすめの読者
- アジャイルやスクラムを導入した組織のマネージャーや経営者
- アジャイルを組織に普及させる方法を知りたいリーダー
コメント
アジャイルを組織に導入する際の「なぜアジャイルで働き方を変える必要あるのか」「どうやって成果を出すのか」「何を解決できるのか」を理解するための実践的な手法が書かれた本です。
カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで
市谷 聡啓(著/文)新井 剛(著/文)
発行:翔泳社
おすすめ度
初心者: ★★★
中級者以上:★★★★★
おすすめの読者
- アジャイルやスクラム実践しているチームのリーダーやメンバー
コメント
中級者に特におすすしたいのはこの本です。組織内でアジャイルを1人からはじめてチームを作り上げるまでを描いたサクセスストーリーです(サブタイトルの「越境」の意味は組織の壁、契約の壁、などさまざまな障壁を乗り越えるという意味です)。 ストーリー+解説という構成なので読みやすく、アジャイルで進める際によく発生する課題を解決する方法や、さまざまなプラクティスについての具体的な導入方法が書かれており、とても実践的な内容になっています。公式の登場人物紹介を見ながら読み進めるとより面白く読み進められると思います。
スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術
ジェフ・サザーランド(著/文)石垣 賀子(翻訳)野中 郁次郎(解説)
発行:早川書房
おすすめ度
初心者: ★★★
中級者以上:★★★
おすすめの読者
- スクラムを導入しようとしているマネージャーや経営者
- スクラムを導入済みのチームのリーダーやメンバー
コメント
スクラム提唱者の、ジェフサザーランド執筆の本です。
著者の体験談を通して、なぜスクラムが必要なのかを誕生の背景から知ることができるので、腹落ちしやすくなっています。スクラムの価値基準である「マルチタスクは悪」(=集中)だったり、「チームが大事」であること、またリーン思考の「仕事量は少ないほうがいい(ムダ、ムラ、ムリ)」なども理解できると思います。またスクラムをソフトウェア開発以外に適用する事例も記載されているので興味深い内容になっています。
まとめ
今回はアジャイルやスクラムを正しく理解するためのステップとおすすめの書籍を紹介しました。
書籍を読んで基礎をしっかり身につけ、色々なプラクティスや失敗例を知った上で実践すると、成長スピードを高めることができます。
書籍を読まずにアジャイルやスクラムを実践することもできますが、先人たちが経験してきた失敗を繰り返すことになり、成長に時間がかかってしまいます。
本を読むのが苦手な方もいらっしゃるかもしれませんが、マンガ形式やストーリー(小説)形式の書籍も数多く出ているので、自分に合った一冊を見つけて読み進めてみて下さい。
執筆 = 渡邊賢二