新年明けましておめでとうございます、メンバーズルーツ カンパニー社長の神尾です。
私たちは、2020年4月に地方企業のDX推進を、専門的なスキルを有したデジタル人材とチームでご支援する事業体として活動をスタートしました。
そして、2021年はおかげさまで多くの地方銀行の方々からお問合せやご相談を頂くことが増え、「地銀×DX」の幕開けとなる年だったと実感しています。
では2022年は?というと、以下の記事が一つの示唆となりそうです。
九州地銀、デジタル対応急ぐ 顧客の多様なニーズ対応(日本経済新聞 2022年1月5日掲載)
この記事の中でもとりわけ、以下の部分、
「21年11月に改正銀行法が施行され、人材派遣やシステム販売に参入しやすくなったほか、地元企業への出資規制が緩和された。IT(情報技術)分野は今、銀行を差別化する要素の一つで、内製化の力を持たないといけない。」
という、ふくおかフィナンシャルグループ 柴戸会長兼社長のコメントが印象的でした。
1.改正銀行法によって多様な事業が可能になった点
2.DXは内製で進めるべきと言及している点
この2点をどう進め、どう活かして競争優位性を高めていくのかが2022年の地銀経営のポイントだと仰っているように読み取りました。
これについてはとても頷けますが、一方で記事中3つの地域金融機関グループのトップからは、地銀がDX或いは多様な事業への参画が可能になったことによって何を成すべきなのか?というパーパス(企業の目的≒存在意義)については残念ながらあまり触れられていません。
(日経新聞の年頭所感のような取材の場合、景況観中心の話になりがちなのかもしれません。)
しかし、いよいよ本格的にDXへ取り組む銀行が増える中、そして社会全体を取り巻く環境が激変する時代の中、地銀がDXを本当の意味で持続的な競争力とするためには、表面上のデジタル化・非対面の取り組みの巧拙ではなく、何のために自社あるいは地域のDX推進を手掛けるのか?というパーパスを明確にする(示す)ことがより重要になるのではないでしょうか。そしてそのパーパスを実現するためには、組織の在り方も変えていく必要が増していくのではないでしょうか。
本稿では「地銀DXの”パーパス”と”組織の在り方”」をどう考え取り組んでいくべきか、私たちなりの考えを示してみる試みから2022年をスタートしたいと思います。
“持続可能な地域社会づくり”こそが地銀DXのパーパス
私たちは地銀がDXを推進するパーパスは、「持続可能な地域社会づくり・ソーシャルインパクトの創出」だと考えています。そしてそれを実現するための手段が「DX」です。
これを「地銀DX推進による地域経済発展モデル」として整理したものが下図になります。
地域で暮らす生活者と地場産業、この両方に大きな影響力を持ち、下支えが出来るのは地方自治体を除けば、地銀や信用金庫などの地域金融機関だけでしょう。
この図のポイントはそういった地域金融機関の特性を踏まえて、地銀によるDX推進が、1つは個人の生活の質向上に寄与し、もう1つは法人(取引先)の成長を支えることを表している点にあります。
”個人の生活の質向上を図るDX”とは、例えば地域金融機関が持つ多様な金融サービスをアプリやWebサイトのデジタルチャネルを通じて提供し、それが一層便利で役立つものになることです。
もう一つの”法人(取引先)の成長を支えるDX”とは、例えばECサイトの開設による販路拡大をイメージしていただけると分かりやすいかと思います。
それらが叶う先に、地域での暮らしが豊かになることや地域社会の持続可能性を高めるCO2の排出削減やサーキュラーエコノミーの実現に近づくことが出来るのだと考えます。
これを可能にするのが地銀含む地域金融機関であり、DXを推進する大義であると私たちは考えています。そして、このゴールに大きな意義を感じているからこそ私たちは地銀向けの支援に注力しています。
(なぜ地方企業の成長の先に、脱炭素やサーキュラーエコノミーの実現があるのかという話はまた別の機会にしたいと思います。)
地銀DXの成否を握るアジャイルチームへの変革
このパーパスに沿ってDXを進める方法としては、先に挙げたコメントの通り、内製で推進することが必須となります。
個人向けでは、金融商品やサービスを幅広い個人顧客に効果的に提供していくには、PDCAを高速で行うスピードが何より重視されます。法人向けであれば従来の銀行サービス以外の多様なニーズ(SDGs支援、ビジネス成長支援など)に応えていかなければなりません。
単なる商品を仕入れて売れば解決できるようなものではなく、自らが課題解決の提案を行えるようになる必要があるのです。アウトソーシングに完全に依存している状態ではとても対応できないお題ばかりです。
このことに気づいている地方銀行では、内製のための人材採用や既存職員の教育/リスキリングに注力し始めているようですが、デジタル人材がいれば事足りるのかというと決してそうではありません。
なぜならば不確実性に対応できる変化に強いチーム作りがセットで必要だからです。
最近ではこの不確実性があふれている状況や時代を指してVUCA*と呼ばれています。
*Volatility(ボラティリティ:変動性)、Uncertainty(アンサートゥンティ:不確実性)、Complexity(コムプレクシティ:複雑性)、Ambiguity(アムビギュイティ:曖昧性)の頭文字を取った造語
その不確実性を乗り越えるチーム作りための思想が「アジャイル」であり、従来の組織を、高速PDCAのデジタル活用を実現する「アジャイルチーム」へと変革していくことを私たちは提唱しています。
システムやソフトウェア開発におけるプロジェクト管理手法の1つとして「アジャイル開発」が注目されて久しいですが、ここで言う「アジャイル」は「アジャイル開発」手法そのものを指しているのではなく、2001年にその思想の原理原則として公開された「アジャイルソフトウェア開発宣言」*にある”変化への対応”を最も重要な価値とした集団であることを「アジャイル」という言葉の定義として使っています。
*出典:アジャイルソフトウェア開発宣言
私たちは現在、自らが「アジャイルチーム」の実践者として、最小構成のチームとしてお客様先(銀行デジタル部門)にて稼働し、高速改善による成果創出と変化を尊重した自己組織化されたチームの輪を広げていく活動(サービス提供)をしています。
※下図がサービス提供イメージです
チーム運営には、アジャイル開発を実践するためのフレームワークの一つである「スクラム」を取り入れ、顧客企業側のメンバーと一体となったチーム作りを行い、単なるアウトソーシングでは出来ない人材育成やデータ分析、PDCA実践の機会提供の場としても機能しています。
従来の”トップダウン型”、”縦割りでの業務執行”、”計画が絶対”という色合いの濃い金融機関において、アジャイルの思想を根付かせ、変化に強いアジャイルチームを多く作ることができるのかどうか。これが地銀DX、引いては地域経済の発展の鍵を握っていると私たちは考えています。
先に挙げた地銀DXのパーパスの理解浸透とアジャイル組織づくりを2022年のチャレンジとして、本年も多くの地域金融機関の方々との対話やご支援に取り組むことを新年の抱負としてコラムを締めくくりたいと思います。
今後、重要なテーマとして「地銀の組織変革へのチャレンジ」と「アジャイルチームの実践知」を中心に記事コンテンツやセミナーを展開していきたいと計画していますので、ご期待ください。
執筆 = 神尾武志