2024年12月6日に「地銀62行・メガバンクDX推進状況レポート(2024年6月実施 独自WEBサイト調査より)」が発表されました。本レポートから見えてくる、これからの地方銀行のデジタル戦略について、地銀DXラボ編集長の田中さんにお話をお伺いしました。
※本記事は、2024年12月に掲載された【地銀DXラボ編集長に聞く】これからの地方銀行のデジタル戦略の続編です。
何を売るかではなく、顧客の人生にどれだけ寄り添えるか

編集部 住久
前回の記事では「誰に」「何を」届けるかというテーマで議論しましたが、今回はその続編として、「銀行主語」から「顧客主語」へとマーケティングの軸をどう変えていくかを深掘りしていきたいと思います。
田中編集長
これまでの地銀マーケティングは、商品を起点に「この定期預金をどう売るか」「住宅ローンをどうPRするか」という“バンクドリブン”の発想が中心でした。
ちなみに、この“バンクドリブンマーケティング”という言葉は、従来の銀行主語・商品主語の発想を象徴するものとして、私たちが新たに定義した造語です。つまり、銀行の事情や提供したい商品を起点にした一方通行型のコミュニケーションのことを指しています。
これからは、顧客の課題やライフイベントを起点に発想する“顧客ドリブン”なアプローチへのシフトが求められていると思います。


編集部 住久
従来の「バンクドリブン」な発想からの脱却は、メガバンクやネット銀行との差別化を図るうえでも、地方銀行ならではの進化のカギかもしれませんね。
田中編集長
おっしゃるとおりです。資本力やテクノロジー投資の規模では、メガバンクやネット銀行がアドバンテージを持っています。だからこそ、後追いで同じことをしていても、勝ち目は薄い。地銀が持つ最大の強みは、地域の顧客との関係深度です。地域で暮らす人にとって、初めて触れる“金融の入り口”になっているのが地銀なんです。
この“最初の金融タッチポイント”という立場こそが、他の金融機関にはない地銀の優位性です。だからこそ、「商品ありき」ではなく、「この人はいま何に悩んでいるか」「どんな未来を描こうとしているのか」に寄り添うことが、地銀ならではのマーケティングになるんです。


編集部 住久
商品ではなく顧客から出発するというのは、大きな意識転換が必要ですね。
田中編集長
はい。地域に根ざした金融機関だからこそ、地域の人々の生活のリアルをもっと深く知る必要があります。例えば、若年層が将来に不安を感じているなら、預金よりも「人生設計のサポート」を提供するべきだと考えます。


「共感」から始まるマーケティングへ

編集部 住久
多くの地銀が「データドリブン」を掲げていますが、実際には思うように活用できていないという声も聞こえてきます。
田中編集長
多くの金融機関が属性データに基づいた一斉送信にとどまっていて、顧客の行動や感情に寄り添った施策にはなっていないのが現状です。顧客は、自分ごと化できる提案にしか反応しません。求められているのは、まず顧客のインサイトを理解し、そこに寄り添ったマーケティングです。


編集部 住久
たとえば、どんな取り組みがあるのでしょうか?
田中編集長
一つは、「ライフイベント前後の顧客体験」に着目した施策です。例えば、結婚・出産・転職・介護といった局面で、単なる金融商品提案ではなく、“何に困っているのか”を起点にしたサポートを展開している銀行が出てきました。
実際に、ある地銀では住宅ローンの事前審査時にファイナンシャルプランナーとの無料面談を導入しています。この面談では「教育資金への不安」「実家の相続」など、表に出にくい課題が顕在化し、金融商品ではない提案価値を生み出すきっかけにもなっています。
また、マイカーローンの申し込み時に「クルマを買いたい理由」までヒアリングして、子育て世代や介護中の顧客に“目的別のストーリー提案”を行う取り組みもあります。数字ではなく「背景」を理解しようとするアプローチが、顧客との信頼関係を築く第一歩になるのです。

顧客ドリブンへの変革に必要な“組織の意識変革”

編集部 住久
とはいえ、「マーケティング=売上を上げること」という認識は根強いのではないでしょうか?
田中編集長
現場の意識変革は確かに簡単ではありませんが、顧客ドリブンにすることで売上が上がらないわけではありません。むしろ、デジタル化が進む今こそ、「顧客とどう向き合うか」を再定義し拡張するチャンスでもあります。店舗やアプリ、ダイレクトチャネルの役割を改めて見直し、「つながり方」そのものを変えていく必要があると思います。


編集部 住久
“モノを売る”から“意味を届ける”組織へ。これからのマーケティングのあるべき姿かもしれませんね。
田中編集長
はい。地域で暮らす人々の課題に寄り添い解決することが、地銀の本質です。売るための情報発信ではなく、顧客の人生に寄り添うような関係性が、地銀の未来を明るくすると信じています。

顧客起点のマーケティングが、地銀の未来を拓く
これからの地方銀行に求められるのは、単なる商品提供者ではなく、「地域の人生に伴走する存在」としての変革です。特に、メガバンクやネット銀行とは異なる「顧客との距離の近さ」「人生の最初の金融接点であること」が、地銀ならではのアドバンテージ。その強みを最大限に活かすには、「顧客ドリブン」のマーケティングが欠かせません。
顧客の感情に寄り添い、人生のストーリーに共感し、その未来を一緒に描いていく。そんなマーケティングが、これからの地銀の在り方を大きく変えていくことでしょう。
地銀DXラボを運営する株式会社メンバーズ フォーアドカンパニーでは、これまで蓄積した実践知を活用した地方銀行さまへの伴走型DX支援を通じて心豊かな地域社会づくりを目指しています。本記事で紹介している全体戦略策定支援やデータドリブンな体制構築にご興味のある方は、以下よりお問い合わせください。
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