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【メイン口座化戦略】顧客の給与振込口座を奪うには?

給与口座を制するものが、顧客との主導権を握る

地銀の最大の課題のひとつが「メイン口座化」、すなわち顧客の給与振込口座として選ばれることです。給与口座に設定されることで、毎月安定的に入金が発生し、その後のカードローン、住宅ローン、クレジットカード、資産運用など多様な金融ニーズに連動した接点が生まれます。だからこそ、金融機関にとって“メイン口座”化は顧客との関係性を築くうえで最も重要な起点といえるのです。


なぜ地銀は給与口座を奪えないのか?構造的ハードル

地銀が給与口座の獲得に苦戦している理由は、単なる「PR不足」や「金利競争力のなさ」だけではありません。より根深い、構造的なハードルが存在しています。

企業の給与振込指定口座の壁

多くの企業では、従業員の給与を特定のメガバンク口座に一括で振り込む「給与一括振込契約」が主流となっています。これにより、従業員が個別に振込先を指定する自由度が制限されるケースがあるのです。特に大企業ほどこの傾向は強く、地銀の営業担当が個人顧客にアプローチしても、「会社がメガバンクにしているので…」という壁に直面します。

生活動線に根ざした“惰性”の強さ

給与振込口座は一度設定されると変更されにくい性質があります。公共料金の引き落とし、家賃、クレジットカードの支払いなど、生活インフラが既存の口座にひもづいているため、ユーザーからすれば「変える理由がない」状況が生まれやすいのです。たとえ地銀の利便性が向上していても、その“惰性の壁”を超える訴求が難しいのが現状です。

ネット銀行・メガバンクのUI/UX優位性

給与口座として選ばれるためには、日常使いの利便性が重要ですが、地銀のアプリやオンラインバンキングは、ネット銀行やメガバンクに比べてUI/UXが劣ると認識されがちです。結果として若年層の“口座開設=ネット銀行”という流れが加速しており、地銀の給与口座化を阻む一因となっています。

地銀ならではの「給与口座にしたくなる理由」をつくる

では、地銀はどう給与口座のシェアを獲得していくべきなのでしょうか? 答えは、「給与口座にしたくなる必然性」を、地銀ならではの強みからつくり出すことです。

給与受取特典の再設計

単なる現金プレゼントではなく、地域商店街で使えるポイント、地元施設の無料利用券など「地域密着型の特典」によって、地銀らしい差別化が可能です。給与受取を“地域とのつながり”と再定義するような設計が鍵となります。

ライフイベントと連動したサポート型口座設計

結婚、子育て、住宅購入などのライフイベントごとに口座の機能を最適化し、「給与口座=人生に伴走する口座」として打ち出す戦略も有効です。給与が振り込まれるたびに、マネープランニングや将来設計のサジェストが届くような“次を考える機能”の提供が求められます。

地元企業と連携した給与受取促進施策

地元の中小企業やスタートアップと連携し、従業員への福利厚生として地銀口座での給与受取を推奨する取り組みも始まりつつあります。例えば「地銀口座で給与を受け取ると、地元のカフェで使える月500円分のチケットが配布される」といった、地域経済全体と連動したインセンティブ設計が新しい潮流です。


メイン口座化の本質は「生活口座」から「人生口座」へ

給与口座は、単なる入金口座ではなく、その人の“お金の流れ”の中心となる存在です。だからこそ地銀は「給与が振り込まれるだけ」ではなく、「人生の転機ごとに寄り添ってくれる口座」として、再設計していく必要があります。

「メイン口座化」とは、預金を集めることではなく、信頼を預かること。その意識変革こそが、これからの地銀のメインチャネル戦略の核心になるはずです。

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