2050年のカーボンニュートラル実現に向け、地域金融機関には地元企業の脱炭素化を支援する役割が求められています。しかし、多くの中小企業にとって、脱炭素はコストがかかるもの、自社にはまだ早い、と捉えられがちであり、その推進は容易ではありません。
茨城県を主要地盤とする常陽銀行は、こうした現場の課題に対し、まずは企業の現状の可視化から始め、その後の削減に向けた具体的なアクションを提示するための模索を続けています。現場の行員は、リソース不足に悩む中小企業の現実にどう寄り添い、対話を重ねているのか。また、その課題解決のために、データやAIなどのツールをどのように活用しているのか。
今回は、常陽銀行営業企画部の岡田氏、関口氏、コンサルティング営業部の宮澤氏の3名に、地域金融機関における脱炭素支援の取り組みについて伺いました。(以下、敬称略)

岡田 匡史(おかだ まさし)氏:写真中
営業企画部 法人営業企画グループ 主任調査役
1983年茨城県生まれ。大学卒業後、2006年に常陽銀行へ入行。営業店での業務や従業員組合の活動を経て、2024年4月より現職。取引先企業のサステナビリティ推進や脱炭素経営支援に向けた施策の企画立案、法人営業推進に関する商品企画業務などに携わり、地域企業の持続的成長と社会課題の解決に尽力している。
関口 豪之(せきぐち ひでゆき)氏:写真右
営業企画部 法人営業企画グループ 調査役
1982年茨城県生まれ。2006年に電力会社へ入社し、原子力発電所における水質・放射線管理業務を担当。その後、技術広報として地域住民への理解活動や広報活動に従事。2025年に常陽銀行へ入行後は、脱炭素社会の実現を目指し、取引先企業のサステナビリティ推進や脱炭素経営支援に関する施策の企画・展開・管理を担当。環境負荷低減に向けた取組みに尽力している。
宮澤 恵太(みやざわ けいた)氏:写真左
コンサルティング営業部リサーチ&コンサルティンググループ 調査役
1988年茨城県生まれ。大学卒業後、2011年に常陽銀行へ入行。営業店で個人・法人営業に従事した後、政府系金融機関への出向を経て、2021年4月より現職。コンサルティング営業部では、取引先企業への総合コンサルティング業務や脱炭素経営支援業務の実務に携わり、地域企業の持続的成長支援に尽力している。
「ツール導入」はゴールではない。3つのステップで支える脱炭素
―地域金融機関にとって、取引先企業の脱炭素支援は重要なテーマですが、まずは常陽銀行様を含めた、めぶきフィナンシャルグループ全体として、現在どのような方針で取り組まれているのか、全体像からお聞かせください。
宮澤:私たち、めぶきフィナンシャルグループでは、2025年4月からスタートした第4次グループ中期経営計画において、地域の脱炭素社会および環境保全への貢献を重要な事業マテリアリティの一つとして特定しています。
主な活動としては、事業者のCO2排出量の算定、いわゆる可視化の支援と、その後の削減計画の策定支援を行い、地域のお客さまの環境負荷低減に貢献していくことを掲げています。
関口:私たちが目指しているのは、単にツールを販売して終わりという関係ではありません。脱炭素への取り組みは、脱炭素の必要性を理解する「知る」、可視化し計画を立てる「測る」、そして実際に排出量を削減する「減らす」という3つのステップを着実に進めていく必要があります。
特に、排出量可視化ツールの導入はあくまでスタートラインに立つことに過ぎません。そこから先の、実際にどう減らしていくかという長い道のりこそが重要であり、私たち地域金融機関は、その息の長いプロセスに伴走し続けることが使命だと考えています。
―「知る・測る・減らす」のステップの入り口となる「知る」から、その後の「測る(可視化)」では、具体的にどのようなアプローチをされていますか?
宮澤:これまでは、脱炭素領域で先行するGHG可視化サービスを提供する企業と連携し、ビジネスマッチングという形でお客さまへの提案を行ってきました。しかし、そこで一つの課題に直面しました。これまでのツールは非常に高機能である一方、私たちの主な顧客である中小企業のお客さまにとっては、機能が多すぎたり、費用面でのハードルが高かったりして、なかなか導入が進まなかったのです。
そこで、もっと簡易に、かつ安価に利用できるツールが必要だと考え、2024年7月にCO2排出量算出・管理サービス「エコサポ」の提供をスタートしました。まずは手軽に可視化を始めていただき、脱炭素経営の第一歩を踏み出していただくための入り口を用意したという経緯です。
―まずは裾野を広げるために、導入のハードルを下げたわけですね。しかし、ツールを導入しても、そこに入力するデータを集めること自体が、中小企業にとっては難しいという声も聞かれます。
宮澤:その通りです。「どういうデータを、どの範囲で入力すればいいのか分からない」というお客さまは多くいらっしゃいます。
そのため、最初から完璧な算定を目指すのではなく、まずは取り組みやすい電気料金の明細など、手元にあるデータから入力を始めていただくことを提案し、スモールスタートを促しています。また、行内の営業店向けに勉強会を実施し、お客さまがつまずきやすいポイントをフォローできる体制を整えています。
現場のリアルな声。なぜ今、コストをかけてまでやるのか?
―リソース不足に加えて、そもそもなぜ取り組む必要があるのかという動機付けの部分でも、難しさを感じることはありますか。
岡田:非常に強く感じます。データ入力のリソース不足もそうですが、多くの中小企業では、一人の担当者が複数の業務を兼務しているケースが多く、脱炭素のために新たな作業時間を割く余裕はほとんどありません。
サプライチェーンからの要請がある企業は別として、そうでない多くのお客さまからは、「なぜ今、ウチがやる必要があるのか」、「それに取り組むことで、どんなメリットがあるのか」という問いが寄せられます。
お客さまからすれば、脱炭素はコスト増になるという認識が強く、メリットが見えにくいのが現状です。単に環境に良いからというだけでは、経営判断として踏み切るのは難しい。取り組まないことのリスクや、取り組むことのメリットをどう伝えるか。そこをうまく言語化し、お客さまの経営課題とリンクさせて提案することが、現場にとっての大きな悩みどころでした。

「可視化」のその先へ。コスト意識を変えるためのアプローチ
―可視化までは「エコサポ」でハードルを下げることができましたが、その先のどう減らすかという段階でも、やはりコストが壁になるのでしょうか。
宮澤:そうですね。可視化ツールを提供して終わりではなく、重要なのはその後の削減です。しかし、ここでもやはり脱炭素はお金がかかるという固定観念がハードルになります。
そこで私たちが削減計画策定のステップで注目し、導入を進めているのが脱炭素ロードマップ策定システム「Green AI」です。私が共感したのは、「コスト削減による事業強化と、脱炭素化を両立する」というビジョンです。中小企業のお客さまに対して、コストをかけずに効率的に省エネが進められる施策などをスピーディーにリストアップして提示できる点が、このツールの特徴だと捉えています。
―削減施策がリストとして提示されることで、お客さまの反応は変わるのでしょうか。
宮澤:これまでは、削減施策を検討するために、どの設備がどれくらいCO2を出しているか、どのような削減施策が存在するのかといったリサーチに多くの時間と労力がかかっていました。それがツールによって効率化され、まずはここから手を付けてみてはどうかという具体的な選択肢を早期に提示できるようになりました。
「脱炭素=コスト増」と考えていたお客さまに対し、こうした省エネ施策なら、コストを抑えながら脱炭素にもつながりますと具体的な根拠を持って提案できるようになれば、お客さまのマインドセットを変えるきっかけになると期待しています。
地域全体への波及を目指して
―具体的な削減アクションが見えてくれば、次のステップにも進みやすくなりそうです。今後はこの取り組みをどのように広げていこうとお考えですか。
宮澤:まだ事例は少ないですが、こうしたツールを活用することで、現状把握から対策の検討までの時間を短縮し、意思決定のスピードを上げていきたいと考えています。
また、個社ごとの支援にとどまらず、茨城県内に拠点を持つ大手メーカーさまなどにも働きかけ、そのサプライヤーである県内企業に対して、私たちの脱炭素支援の取り組みをご案内する活動も行っています。そうした活動を通じて、地域全体に取り組みを広げていければと思います。
関口:茨城県には優れた技術を持つ企業が数多くいらっしゃいます。私たちとしては、ツールで洗い出した削減ニーズを、こうした地元のパートナー企業につなぎ、地域内で施工・導入が完結するようなエコシステムを作っていきたいとも考えています。

読者へのメッセージ――お客さまと共に歩むために
―最後に、この記事を読んでいる読者の方々へ、将来の脱炭素社会実現に向けて、メッセージをお願いします。
関口:繰り返しになりますが、脱炭素は一朝一夕で成し遂げられるものではありません。だからこそ、私たちは、一時的なサービスの提供にとどまらず、お客さまの挑戦に寄り添う、伴走者でありたいと考えています。今はまだ手探りの部分もありますが、地域一体となって取り組むことで、必ず道は拓けると信じています。
岡田:変化の激しい時代です。現状維持は企業経営にとって最大のリスクだと思っています。 気候変動対応は待ったなしですが、見方を変えれば、企業が体質改善して新しい競争力をつけるチャンスでもあるとも言えます。
お客さまに「なぜやるの?」と聞かれた時に、自信を持って「御社の持続的な発展のためです」と答えられるように、私たちも変化を恐れずに、対話を続けていきたいと思います。
宮澤:営業の現場では、なかなか脱炭素は響かないなと感じることも多いと思います。しかし、諦めずに対話を続けていくと、エネルギーコストの削減の他にも、採用や企業ブランドなど、経営者様が悩んでいる課題とリンクする瞬間が必ずあります。
Green AIのようなツールを活用しながら、コスト削減という分かりやすいメリットを入り口にして、結果としてお客さまの事業が強化され、地域の脱炭素が進む、そうした好循環を皆さんと作っていきたいと考えています。
【編集後記】
今回のインタビューで印象的だったのは、常陽銀行の皆さまが脱炭素という大きなテーマを、あくまで中小企業の「経営課題」という視点で捉えようとしている姿でした。「環境のため」という言葉だけでは動かない現場に対し、いかに「コスト削減」や「省エネ」といった実利のある提案につなげられるか。そのための手段として、気づきを与える補助線の役割を、AIなどのツールに担わせようとしています。決して背伸びをせず、地域企業の歩幅に合わせた支援を模索する取り組みは、多くの地域金融機関にとって参考になる事例と言えるでしょう。
取材・編集:株式会社メンバーズ サーキュラーDXカンパニー 萩谷 衞厚・桑島 里沙






