こんにちは。メンバーズルーツの山下です。
普段はWebエンジニアとして、金融機関さまのWebサイトの運用業務などを担当しています。
さて、海外銀行のWebサイトから、銀行としての考え方(戦略)や伝え方(コミュニケーション)を考察し、今後の日本の地銀変革の手がかりを探していくこのコンテンツ、
第3弾の今回は、バンク・オブ・アメリカを題材に解説していきます。
当コンテンツの趣旨や調査背景については下記をご覧ください。
(参考)海外銀行Webサイトから考える、地銀変革の手がかり ~アンプクア銀行(Umpqua Bank)~
今回の銀行~バンク・オブ・アメリカ~
バンク・オブ・アメリカ(以下BofA)は、アメリカ ノースカロライナ州のシャーロット市に本社を置くアメリカの銀行です。
創業は1784年と古く、財務状況や市場投資、世界の銀行業務の基礎を作った銀行であることから、世界最大の金融機関の一つといわれています。
同銀行は早期にモバイル・バンキングを提供した銀行として、今回取り上げました。
(今回調査したバンク・オブ・アメリカWebサイト https://www.bankofamerica.com/)
BofAの戦略
サイト全体を俯瞰してみて、特に特徴的なのが提供しているデジタルサービスの質の高さでした。
それも、短期的な目線で金融商品・サービスの契約に直結するようなコンテンツを充実させるのではなく、ライフプランの計画など一見、契約からは遠いようなコンテンツをデジタルサービスとして作りこんでいます。
銀行側としては短期的なコスト回収は見込めないものの、お客様のためになる良質なコンテンツを提供することで顧客の体験価値(CX)を向上させ、中長期的な既存顧客の維持や優良顧客の創出のために機能させようとしていると考えられます。
今回はそんな良質なコンテンツを3点ピックアップして解説してきます。
Life Plan
リンク:Create Your Life Plan (Track it & Achieve it) at Bank of America
同銀行のデジタルサービスとして、最も印象的なのは、2020年10月からサービスを開始した『Life Plan』です。
住宅購入、借り入れの改善、老後に備えた貯蓄など、金融が絡むライフプランの計画を、オンライン上で簡単にたてることができるサービスです。
このサービスは、ゲーム感覚で継続的に実施できるよう、UXがデザインされています。
また、どこでも利用可能なため、目標設定、学習、行員への相談を短いサイクルで実施することができます。
目標設定
『Life Plan』は、まず最初に複数の目標を設定し、それらに優先順位を付けます。
目標は変化に合わせて、リアルタイムに作成、見直しします。
それぞれの目標がバブルのようなUIになっており、優先順位が視覚的にわかりやすくなっているのが特徴です。
学習
目標に対する進捗状況を追跡・管理し、目標達成に向けた段階的なアドバイスや推奨事項をアプリ上で受け取ることができます。
目標管理の現状によってパーソナライズされた最適な教材を、テキスト、動画、チェックリストなど、様々な媒体でインプットすることができます。
インプットの後は、簡単なテストがあり、目標達成に必要な知見をインプットできているか、随時確認することができます。
行員への相談
目標設定した事項の結果に基づき、行員に直接相談することができます。
対面形式、バーチャル形式どちらで相談するか選択可能なのは、ユーザーにとってうれしい点でしょう。
Keep the Change®
リンク:Keep the Change® Savings Program from Bank of America
『Keep the Change®』は文字通り、日々の決済の中で生まれる『お釣り』を、貯蓄することができるサービスです。
このサービスでは、当座預金口座と普通預金口座の両方を持っている顧客が、自動的にお金を貯めることができます。
仕組みはこうです。
まず、575円の商品をデビッドカードで支払ったとします。
この際、端数を切り上げた600円が、普通預金口座から引き抜かれます。
そこで、600円と575円(商品の価格)の差分である25円が当座預金口座に振り込まれます。
現金で例えると、以下のような流れです。
- 商品のお会計が575円だった。
- 財布に小銭がなかったので、500円玉1枚+100円玉1枚の計600円で支払った。
- お釣りとして25円をもらった。
- 家に帰って、25円を貯金箱に入れた。
Keep the Change®では、上記のフローをデジタル化することで、普通に買い物をするだけで自動的に貯蓄が増えていく構造を作り上げています。
貯蓄額シミュレーター
リンク:Watch the savings add up from Keep the Change® Savings Program
Webサイトにおいては、このサービスを訴求するために、ある工夫がなされています。
コーヒー代やタクシー代など、毎日のように使う支出のラインナップから、自分が使いそうな支出を選び、それらのお釣りによって、週や年換算で、どれだけの貯蓄になるのか簡単にシミュレーションできるようになっています。
このシミュレーターによって、このサービスで実際どれくらいお得になるのか顧客に想像させ、行動喚起につなげています。
Personal Retirement Calculator
リンク:Retirement Calculator – How Much Do I Need To Retire?
こちらは、退職後のお金に関するシミュレーターです。
このシミュレーションは、Web上でその機能を簡単に体験することができます。
セカンドライフを理想的なものにするためには、あとどれくらい月の貯蓄額を増やすor減らせばいいかを、詳細にシミュレートできます。
回答する内容は以下の4項目のみです。
1. 年齢と年収
2. 現在の貯蓄状況
現在の貯蓄額と、毎月の貯蓄額を記入します。
3. 退職金
退職金が、退職前所得の何パーセント支給されるか記入します。
4. 投資のアプローチ
投資の割合を、保守的~アグレッシブまで、全5段階の中から選択します。
この機能により、BofAは電子取引プラットフォーム「Merrill Edge®」を、自然な流れで訴求する仕組みを作っています。
このような退職後の生活に関するサービスは、平均寿命が年々上がっている日本にとって、関心度が高まると予想できます。
まとめ
今回の調査で、BofAは、口座内のお金を休眠させず、活発に動かしてもらうための仕組みづくりを数多く行っていることがわかりました。
BofAは、資産形成や貯蓄を、敷居が高いものではなく、ゲーム感覚で行えるようなUXにすることで、それを実現しています。
また、BofAは、金融教育の提供者としての役割を果たしています。
BofAが運営する金融教育プラットフォーム「Better Money Habits®」では、何百ものビデオ、記事、およびリソースにより、パーソナライズされたツールと情報を正確に見つけることができ、人々がより賢く、より自信を持って、財務上の決定を下せるようになる手助けをしています。
BofAのWebサイトは、今回紹介したサービス以外にも、興味深いUXが、数多くあります。
皆さん自身の手で、そのUXを体験することで、地銀変革の手がかりが見つかるかもしれません。
地銀の変革を考えるにあたっては、今までにない新たな視点を取り入れることが必要です。
地銀DX Lab.では今後も国内地銀だけでなく、海外銀行や異業種から幅広く情報を収集・考察し、コンテンツとして発信していきます。
執筆 = 山下寛晃