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金融教育のアップデート:地銀が担う「マネーリテラシー・タッチポイント戦略」

金融教育が地銀にとって“戦略”になる時代

2022年度から高校家庭科で「資産形成」が必修化されて以降、金融教育は制度としての整備が進みました。2025年現在、次のフェーズとして注目されているのが、地域金融機関による“体験としての金融教育”です。

若年層との接点が弱くなるなか、地銀が「人生で最初の金融接点」を提供することの戦略的価値が再認識されています。マネーリテラシーの向上は、将来の顧客基盤を耕す取り組みでもあり、「教える側」になることは、銀行自身のブランドづくりにも直結します。


なぜ今、地銀が金融教育に取り組むのか?

若年層とのファーストタッチが激減

モバイル決済・ネット銀行の浸透により、地銀が「はじめての口座」として選ばれる機会は急減。接点づくりを意識的に設計しない限り、顧客生涯価値(LTV)の起点に立つことすら困難になっています。

公教育だけでは不十分なリアル

教科書での学習だけでは、貯蓄や投資、ローンといった“リアルな金銭感覚”は身につきにくい。銀行の持つ実務知見を「疑似体験」として提供できる点に、地銀ならではの意義があります。

地域金融機関としての存在感を強化

地域の学校・行政・保護者と連携し、生活に根ざしたお金の知識を届けることで、“地域の金融インフラ”としての役割を可視化する効果も。

実践事例:進化するマネーリテラシー支援

名古屋銀行「お金を育てるキャラバン」

名古屋銀行は、野村アセットマネジメントおよびQuizKnockと共同で、中学生以上の学生向け金融セミナー「お金を育てるキャラバン」を開催。参加型のクイズや投資体感ゲームを通じて、資産運用の重要性や資産運用との向き合い方を学ぶ機会を提供しています。

出典:学生向け金融セミナー 全国出張授業 in 愛知県「お金を育てるキャラバン」の開催について(PDF)

西日本シティ銀行「お金の学校」・「SCHOOL OF MONEY」

西日本シティ銀行は、小学生向けの教材「お金の学校」と中高生向けの教材「SCHOOL OF MONEY」を発行し、親子で一緒に取り組めるすごろくゲームや、金融知識を分かりやすく伝える図表を用いた内容で、金融教育を推進しています。

出典:金融リテラシー教育 | 地域社会貢献活動 | 西日本シティ銀行について

山陰合同銀行「金融経済教育」

山陰合同銀行は、学生からシニア世代までを対象に、資産形成セミナーや職場での資産形成に関するセミナーを開催。NISAやiDeCo等の制度についての理解を深める機会を提供しています。

出典:金融経済教育|企業・サステナビリティ情報 – 山陰合同銀行

鍵となる3つの戦略視点

教育を“顧客接点”と捉える発想転換

「教える=CSR」から、「教える=マーケティング資産」へ。将来の口座開設・ローン・資産運用に繋がる“第一印象”をいかにつくるか。

デジタルとリアルの融合

YouTube講座、eラーニング、LINE連携クイズなど、オンラインでの継続接点設計が重要。イベントはリアル、学びはデジタルで補完する設計が理想。

学校や家庭とのパートナーシップ

教育現場の声に耳を傾け、共創型で取り組むことが成功のカギ。親子イベントの実施、PTAとの連携、地元教員の意見反映が効果的です。


地銀が描く“次世代顧客戦略”の中核に

マネーリテラシーは、単なる知識ではなく「意思決定力」です。地域の人々が自立した金融判断を行えるようになることで、結果的に地銀の役割も再定義されていきます。

「教えることが、選ばれる理由になる」。そんな時代において、金融教育はCSRではなく、地銀の中核戦略として位置づけ直されるべきフェーズに入りました。

※この記事は2025年5月時点の情報をもとに構成されています。

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